長く厳しい行程が予想されたので前日の晩に久慈市に移動。市内のコンビニで冷やし中華とビールを買い、9時頃に駅裏の豪華だけど古いホテルに到着。一時代前の高級ホテル感があり、受付の男性スタッフは岩手っぽい人の良さが感じられる。
「夏の宿受付男子の南部弁」この二番煎じはいけません。
翌朝目覚ましで起きる。ホテル駐車場は車を置いていいと言われ、でもまだ寝ぼけているので車に忘れ物をして戻ったりしながら久慈駅へ。久慈の町は霧で覆われていた。
夏井駅を通過・・駅そのものが客車になっているではないか。車内から撮った写真。
汽車は内陸に入りうっそうとした緑の中を進む。点在するそれぞれの家で庭木や家庭菜園をやっている。日本中のほとんど誰も来たことのない山中で、楽ではない、地に足の着いた毎日が繰り返されているんだなと、感動する。やっと海が見えて陸中中野に着くと、懐かしく感じる。
ここになんと、2週間前に出会った女子高生が居た。こちらは下車、向こうは友達と乗り込んで来た。手を振って親しみを込めて話しかけた!・・あれ?ちょっと距離を感じる。友達といて恥ずかしかったのか、あるいは「この人たちまた居る。何者?」と不審に思ったかのどちらかである。
中野駅を南側に進み、線路を越えて海側の道に出て行くと高家漁港がある。高家川の河口は何やら工事が入っていて簡易トイレがあり、トレイルウォークする人をカウントする数取器が設置してある(これはトレイルの所々にあり)。数字を見ると大体月に30人程度みたいだ。用意してきたサンダルに履き替えて渡り、ここでまた靴を履くが、そこは島になっていて結局もう一つ川を渡ることになった。
その後山道の急斜面を登っていくが、踏み跡がはっきりしないし、標識の間隔が遠い。いったん車道に出て歩くが、たぶん侍浜町桑畑辺りでトレイルの入り口を見失い、そのまま道に沿いに内陸に入ってしまった。
桑畑漁港に出る。この辺りはほとんど人に出会うこともない。漁港のコンクリートにぺタリと座わってお菓子を食べると、ふと「自由だな」と感じる。その後も山と海を行ったり来たりする。所々漁港があるが誰もいない。
全体に中野~侍浜にかけて歩く人も少ないのだろう、トレイルの踏み跡が曖昧で標識も少ない。もう少し整備されていればといいと思う。みちのく潮風トレイル全般に言えることだが、標識が分かりやすい所とそうでない所の差が大きい。自治体によって違うのだろうか。
ここは珍しく沢山の漁師が集まって、次々に船が出入りしている。雲丹漁かなと思う。あまりにも必死に動いているので声は掛けず。床が落ちそうで危険な公衆トイレ(内側からドアの紐を引っ張りながら用をたす)を使わせてもう。漁港には密漁監視小屋と小さな神社があり、先の踏み跡を辿るが行き止まり。その先は崖になっていていて、諦めて引き返す。
今マップで確認すると、本当はここから少し登り返したところ、左手側にトレイルがあったはず。
途中、民家の庭に真っ赤な「侍浜ジャイアンツ」のTシャツを着た元気なお母さんが居る。子供が野球チームをやっていて皆で揃えたものだって。この道は侍石まで通じてますか?と聞くが、地元なのに「そっちの海のほうは行ったことない」という返事であった。結局トレイルが見つからずまた車道を登った。アップダウンが結構きつくて、グーグルマップで位置確認をするとだいぶ南下している。侍石は残念ながらカットした。
侍浜キャンプ場に到着。ここは以前、職場でバーベキューをやりに来たことがある。夏に向けて草刈り作業がなされていた。きれいなトイレを使わせてもらい、自販機が文明的な感じがしてほっとして、東屋でジュースを飲んだ。「きのこ屋」南側敷地の芝生地に展望所の標識があり、階段を下り海を見てまた登り返す。(きのこ屋はなんと、直後7月に閉店した。泊まってみたかったのに残念、コロナおそるべし)。
霧の中、いきなり岩手の北リアスらしい荒々しさが出てきた。
侍浜から先は山道が延々と続くが、わりと平坦な道で、手入れされていて歩きやすい。時に海が見えると、切り立っていて北三陸らしい荒々しい景観だ。大きな蕗が群生していたが、栽培しているのだろう。秋田蕗?でもここは岩手県だよなと思う。
「岩手県霧の中から秋田蕗」
うねりのある大地状の土地。海側に出ると東風が涼しく、山側に入ると時々民家が点在し、どの家も畑があり花が咲いている。どこまでも続くような錯覚に陥る。トレイルの木の標識が苔むしていて、海からいつも霧が流れ込んでていることを知る。
「トレイルの海霧標識苔むして」
厳島神社は半島の顕著な突端にある。やっと辿り着いた感じであった。できるだけ海を見ようとして歩いたが、漁港での行き止まりが多くてアップダウンが続き、体力の限界が近づいてきた。しかしこの神社には寄らねばなるまい。神社はかなり下り、そして登り返す。
牛島の方から一人で登ってきたおじさんが居て、今仕事で久慈に住んでいるとのこと。その人の後ろを歩いてきた黒い動物がいる。勝手に付いてきたって。こんな人懐っこいニホンカモシカ初めてみた。
厳島神社からは車道を歩き、かなり内陸まで回り込むので遠かった。最後のつづら折りをトレイルでショートカットすると、目の前に「もぐらんぴあ」があった。汗だくへとへとになってしまい、水族館内の見学はしなかった。一瞬タクシーを呼びたくなったが、座り込んで「いろはすピーチ550㏄」を一気飲みしたら少し元気が出た。
2人とも膝と腰が痛くなり、夏井から続く高くて長い堤防を後ろ向きに歩いたりした。堤防の内側には震災後に建てたのだろうか、区画された土地に新しい家々と手入れされた畑があり、子供たちの遊ぶ姿が見られた。久慈駅にたどり着く頃は日も陰ってきた。この年にして最大限に疲れ、腰や膝が痛んだ。
疲れ果て、ナチュラルハイの脳で、山頭火の表面だけ真似っこして句を詠んだ。
「オレンジの雲影さしてカナカナカナ」