なぜ七里長浜を歩こうと思ったのか?考えてみると、どんな小さな行動にも、何らかの背景や理由めいたものがあるものだ。
以前から予定のない休日に、妻と子ども達を乗せてドライブすることがあった。自分としては子どもを楽しませたい気持ちもあったが、うちの子たちは車で出かけることにあまり興味がなかったような気がする。せっかくきれいな景色が見えるのに目の前の何かいじっていたり、または眠ってしまうことがほとんどだった。自分が行くのはいつも山か海で、自然に触れられる場所で、ショッピングセンターなど子どもが喜ぶ場所ではなかった。
今にして思うと、自分の暇つぶしのために家族を付き合わせていただけのような気がして申し訳ない。
七里長浜の起点、津軽港(七里長浜港)では子どもと小アジを釣ったことがある。終点の十三は中世に安東水軍が栄えた地であり、十三湖が海に開かれる場所だ。水道を跨ぐ十三湖大橋が素晴らしい。地図上で顕著な場所というのは、そこに自分が居ると思うだけでテンションが上がる。だから十三は結構出かける自分の萌えポイント?だった。
七里長浜の中間の辺りにはベンセ湿原がある。ニッコウキスゲを見に行ったとき、小さな踏み跡を辿って海岸に向かったことがある。屏風山の薄暗い森を抜けて海に出たときの開放感と、まっすぐに伸びた砂浜に感動した。ただゴミの多さにも驚いた。そして粘土質の地層に埋もれた「氷河期埋没林」の根っこが剥き出しになっていた。でもここにはほとんど誰も足を延ばさないらしく、全く無人の雰囲気だった。
地図で見ても津軽平野がそのまま海に面しているので、険しい地形は無さそうだ。仮に砂浜が繋がっていないところがあっても、少し陸側を巻けば行けないことはないだろう。
「通して歩いてみたい」と言うと、妻が「あんだ北○○さ連れで行がれればどうすんの?」と言った。確かにな、北〇〇も危ないけど途中の車力には自衛隊駐屯地がある。不審者として捕まっても困る。そんなわけで、この案件はしばらくそのままになっていた。
ある時Kさんに、ご自分で書いた本をいただいた。Kさんは地域を盛り上げるために、仲間と一緒にさまざまな活動をしてきた人だ。活動の記録と共に、岩木川をゴムボートで下った記録や、七里長浜を踏破した記録があった。ちょっとした探検家の面もあったのだ。何十年も前の若いころの記録だが、それを見て「やっぱり行けるんだ」と分かった。
地図で見ると30キロ弱だ。普通の道と違って砂浜はどの程度進みにくいのか、時速何キロ位で行けるのか分からない。それと、もし南側から歩くと常に左側に傾斜した面を歩くわけだから、足・膝・腰への負担はどうなのか?も気になる。
しかしKさんは1日で(しかも2日酔いの状態で?)初冬に歩いている。その頃はだいぶ若かったけど、そうは言っても今の自分たちでも2、3回に分ければ行けるだろう、ということになった。
実行にあたりかなり綿密に計画を立てた。1日の行程をどこで区切るのか、エスケープルートはどうするか?ベンセ湿原の小道、平滝沼の小道など、海に通じる踏み跡を偵察した。屏風山は樹木と藪の中に沼が点在して、原生林のようになっていた。ライフルの音がして、犬を連れて猟銃を撃っている人に出会った。
2日で歩く計画では中間に適したところが見つからず、3日に分けることにした。出来島と高山稲荷神社は駐車場がしっかりあるし、1日10キロ前後になるから楽そうだ。家から車2台でその日の終点に行き、1台置いて出発地に戻るというシャクトリ虫方式とした。
漁港から出発すると、しばらくは広い砂浜が広がっている。流木が組んであるなどして、キャンプをした形跡が点在している。津軽港から近いからだろう。
所々川が流れ込んできていて、どうせどこかで濡れるだろうから靴のままジャブジャブ歩く。
20分ほど歩くと砂浜が狭まり、崖が迫ってくる。
ちょっと滑りそうな、傾斜のある廊下状の所をへつっていく。人工的に削ったように思われた。とすればここは元々、人が往来するルートだったのかもしれない。
崖を越えてしばし砂浜を進むと幅が狭まり、海が直接テトラポットにぶつかる場所となる。幸いその内側に堤防が伸びている。
幅50センチほどの堤防は、最初の辺りが結構高くて背丈ほどもある。転がっていたポリタンクを2個重ねて乗っかり、両腕の力で這い上がった。歩きながらちょっとよそ見をすると落ちそうになり「あれ?」と思う。明らかにバランスが悪くなったのは年のせいだろう。
テトラポットと堤防の間と、堤防の陸側にはかなりのプラスチックゴミが溜まっていて、気が滅入る。大波で打ち上げられ、引っかかって溜まるのだろうが、また大波がくれば流れ出すだろう。海洋のプラスチック汚染がこれだけ問題になっている。何とかしなければと強く思う。
中国語や韓国語のペットボトルが目立つが、ざっと見て半分以上は日本のゴミだと思われる。漁具、船や港で使ったと思われるポリタンクや発泡スチロール、いろんな容器、サンダルなど日用品も多い。海のマナーは目につきにくいぶん、陸上に比べて相当悪いのではないか。
堤防が終わり、川が流れ込むところで砂浜に降りる。沖の方に携帯電話のアンテナににた形の巨大構造物がある。なんだろう。
のんびりした気分に浸る。気温はちょうどよく、海風が気持ちいい。
海が大きく砂浜側に入り込んでいるところがあった。
巨大な発泡スチロールの塊。向こうに「津軽漁港 日本海の防波堤」が見えてきた。この防波堤の手前辺りも大量のゴミが広がっていた。
晴天、ハート型の雲。
防波堤の突端まで歩いてまた戻り、砂浜に降りる。親子連れが釣りを楽しんでいた。
出来島海岸に到着。行程は大体8㎞ほどだったと思う。ゆっくり歩いて2時間半だった。
次の行程、北側の海岸を展望すると、難所のない砂浜が続いている。