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太平洋

潮風トレイル⑨2021.9.5 普代~田野畑

6:30 カンパネルラ田野畑駅

早起きして田野畑駅へ。ここから普代に戻るはずが、ちょうど数分前に着いた宮古方面行きの汽車に間違って乗ってしまう。まだ寝ぼけていたのか、慌てて島越駅で下車。

6:52 カルボナード島越駅

勇み足で島越まで来てしまった。7:00になると、駅の管理を任されているパート風のおばちゃんが軽自動車でやって来て駅舎を開けた。被災して新築されたお洒落な駅。きれいなトイレを使わせてもらい、居心地の良い待合の書籍コーナーで休ませてもらう。吉村昭の本が揃えてあり、「星への旅」を読む。地元「鵜の巣断崖」をイメージして書かれた小説らしい。

8:16 普代水門

普代駅から小雨の中、ポンチョを着て歩き始める。1984年に完成したというこの水門によって、普代村は大震災の被害をそれほど受けなかった。この細長い土地で水門がなかったら、大変なことになっていただろう。

9:22 黒崎漁港方面へ

44号線(シーサイドライン)を進む。路上に大きなノコギリクワガタが死んでいて、夏の終わりを告げている。内陸に入っていく所で道は分かれ、黒崎漁港に降りていく。

9:29 ネダリ浜

綺麗に整備されたネダリ浜自然遊歩道。宮古の浄土ヶ浜の遊歩道に似ている。地元のお父さんと小学生の息子が釣りをしていた。秋風が吹いていて、ずいぶん遠くまで来たなと思う。
「秋風に背中押されてネダリ浜」

9:40 ネダリ浜弁天漁港

元々船着き場だったのだろう、コンクリートで固められた浜は崩壊している。休憩小屋があるけど誰かが立ち寄った気配はない。全くの無人で、忘れられた廃港という感じ。

弁天漁港の滝

ここから黒崎展望台に向けて一気に登るが、標高差はほとんど登山みたいなもの。何十年も前に整備されたと思われ、所々階段が崩壊している。かつてはネダリ浜~黒崎~北山崎にかけて一大遊歩道だったのだろう。今は時代が変わり、こんなに長くてきつい遊歩道を歩く人はほとんどいない。

10:15 黒崎展望台

一気に登りきる。黒崎展望台は広々としていてバスプールがあり、少しだけ観光客がいた。

10:37  黒崎灯台

黒崎灯台はとてもきれいでロマンティックな所だった。大きな地球儀や鐘など、インスタ映えスポットがある。キャンプ場近くの国民宿舎くろさき荘でトイレを借り、北山崎自然遊歩道に入る。

13:35 北山崎手前の沢

北山崎自然遊歩道は断崖の等高線に沿ってS字を繰り返して描く、ほとんど水平な道だ。熊に出くわすのが怖いので奇声を上げながら進む。快適でほぼ小走りのようにして行くが、とにかく長い。そして北山崎手前に来ると沢に沿って一気に下り、そしてその分一気に登る。最後の責め苦だ。

14:34 北山崎

上の方から話し声がすると思ったら、突然文明の世界にポンと出た。楽しそうな家族連れが大勢いて、対照的に自分たちはボロボロだ。北山崎は子供の頃に父の車で来たことがあり、未舗装道路が気が遠くなるほど長かった記憶がある。こんなに開けてはいなかった。

14:36  第一展望台
14:48 第二展望台

高校3年の時にもクラス遠足で来たことがある。展望台がその時の記憶とずいぶん違うのは、やはり整備されたものと思われる。トレイル本来のルートはここから浜に降りて海に沿って南下するのだが、田野畑まではだいぶ遠い。本来なら北山崎の宿泊所で1泊し、2日行程にすればちょうど良いのだろう。
明るいうちに着くのは無理なので、44号線に戻り車道を行く。今回は最初からそのつもりであった。

16:05 手掘りトンネル手前

そのまま44号線を辿っていくと、「おみおしトンネル」という長~いトンネルの手前でトレイルの標識を見つけた。田野畑はもうすぐだし、最後のちょっと海を歩きたい、と思い海岸に降りた。

16:05
16:16 ラダーを振り返る

一見行き止まりのような壁がありこれを登る。すると下りが一部プラスチック製の不安定な梯子になっている。ここを降り切って振り返った時、急に不穏な空気を感じた。散乱した昆布が腐っていて、とても臭い。その時の不安を妻には言わなかったが、何か「生死の境」のような所に迷い込んだ気がした。

16:16 手掘りトンネル

目の前には手堀りトンネル。恐ろしいが興味の方が勝ってしまうところもあった。一刻も早くこの場を抜け出したく、自然に足が急いでしまう。ヘッドランプを付け、身をかがめて潜り込む。

16:20 1つ目の手掘りトンネルを越える

トンネルの中は真っ暗であった。天井に頭を打たないように気をつけて進む。岩から染み出した水滴が落ちてきて、足元は水溜まり。今津波が来たら一貫の終わりだ。出口には妙にしっかり作られたコンクリートの階段があったが、下の方が崩壊している。海は荒れていて、しぶきがかかってくるほどだ。
そして長~く感じたトンネルが終わったと思ったら、もう1つあった。

手掘りトンネルを振り返る

崩壊した身長ほどの鋭角の岩が海岸を埋めている。高い崖と荒れた海に挟まれて生きた心地がしない。
2つ目のトンネルを越えて登りにかかると、梯子が数か所設置してある。足元は所々切れ落ちていて、疲れもあるので四つん這いで進む。それでも海から離れると少しだけほっとした。
尾根に上がってから、向こう側への下りは踏み跡がかすかで、トレイルのテープもあまりない。この辺り妙に不親切だ。それでもなんとか机浜番屋に降りる頃は日が陰ってきた。

17:30 ホテル羅賀荘を望む

長時間行動の疲労と、厳しい自然から戻ってきた安堵感。
手掘りトンネルはいったい誰が、間違いなく相当な苦労をして、何のために作ったのだろう。落石、高波、滑落・・自然は大きくて強い。人の命なんてちょっとしたアクシデントで飲み込まれてしまうことが実感された。

羅賀荘を経由して住宅街の斜面を越え、田野畑駅に着いたのは19:00頃だったと思う。長い長い1日だった。